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店長

学校を卒業して就職した会社。二年目から営業部に配属された。
配属された営業店の店長は、後に俺が転職した先の社長でもあった。

店長は、大学を卒業して大手商社に入社した。
それから独立して何か商売をやっていたらしい。
そこである程度資金を貯めて、俺が入った会社に入社した。
その会社でノウハウを学んで独立したのだった。

俺がその店長の下に居た時、営業の多くを学んだ。
店長は手取り足取り教えるタイプでは無く、状況を作って挑戦させるタイプだった。
だから仕事のやり方にいちいち口を出すこともしなかったから、
俺は試行錯誤で営業の技術を上げていった。

店長は決して放任主義では無く、ちゃんと俺達の事を見ていてくれた。
それは俺達にも分かっていて。だから俺も店長に信頼を置いていた。

しばらくして俺は他の営業店に配属になった。
店長は本社に呼び戻された。
一年もしない内に店長は会社を辞めて独立した。

俺も少し遅れて、当時の上司が嫌になって会社を辞めた。
俺が当時の上司が嫌になったのは、店長と真反対の性格だったからだ。

俺が店長の会社に、辞めた事を報告しに行くと、直ぐに来いと言われ、
ありがたく店長の会社に入れてもらった。
俺が入社する前に、もう一人社員が入社していた。
その人も、俺と同じ会社に居た人で、店長には全服の信頼を置いていた人だった。

小さな事務所だった。社員は店長、事務員、そして俺を含む営業二人を入れて計4人。
小さな会社だったけど、みんな希望があったし、業績も順調に伸ばしていった。

店長の経営は固かった。決して派手な事をするタイプでは無かった。
ただし、1つだけ問題があった。

それは事務員だ。事務員は店長の愛人だった。
事務員は俺が最初に就職した会社のパートタイマーだった。
派手なケバい女だった。
地味な店長は、一発でイカレてしまった様だ。

細かな経緯は分からないが、
店長が独立する時に、この事務員といっしょに会社を始めたらしい。

業績が良くなって社員も増えて、金回りも良くなってきた。
社員が増えると、いろんな軋轢が出て来る。また会社の体制も変わる。
それに俺より先に入社した社員は馴染めず、退社した。

この社員は、いわばお目付け役で、店長と事務員の関係を知っていた。
だから、この人が事務員の勝手な事を許さない抑止力になっていた。

しかし、その人が辞めてしまってからと言うもの、事務員は事実上、会社のNo2になった。
もともとあまり頭の良い女では無かったから、勝手な事をやり始めた。

当時業績が良かった事もあって、毎年社員旅行に出かけていた。
その行き先は、事務員の希望で決まっていた。

俺が辞める直前、一時会社の資金繰りが悪かった事があった。
おれは社員旅行に反対した。しかしそれを押し切ってヨーロッパへの旅行を敢行した。
その結果、その年の冬のボーナスが支給されなかった。
旅行に行くぐらいなら、みんな生活があるのだから、ボーナスを支給して欲しかった。

また気に入った営業マンをえこ贔屓する様になり、
事務員に苦言を呈するおれは次第に疎ましがられ、
店長も事務員の言う事を鵜呑みにする様になり、
俺が何か怪しげな動きをしていると、ありもしない事を店長に告げ、
その事を店長も信じた様で、
俺の店長に対する信頼も消えてしまった。

そして俺は店長の会社を去る事にした。

その後店長の会社は躍進して、事務所も駅前通りに移転して、
子会社も出来て栄華を極めていた。

所が、リーマン・ショックで大打撃を受けた。
それまで好調だった売上はピタリと止まり、
手を広げすぎた事業は一気に不良債権になってしまった。
それでも4年程粘ったが、とうとう資金繰りに詰まってしまった。

今は田舎の小さな事務所で店長一人でやっているらしいが、
以前前を通りかかったら、人影はなかった。

店長の失敗は事務員だったと思う。
俺が退社した時に、事務員は専務取締役に就任したらしい。
その後事務員を抑える人がおらず、何も分からない癖に業務に口を出すようになった。
それを店長も何も言わなかった。

その内事務員の出戻りの娘も事務員として雇い、事務員の息子も子会社の社員として雇ったらしい。
息子の方は一緒懸命に仕事をしたらしいが、
出戻りの娘の方は母親と同じで、大して仕事もしていなかった様だ。

事務員の方も毎日出社するのは午後2時頃で、6時には買い物をして帰ると言う勤務。
娘の方も昼ごろ出社して夕方帰るという、まるで遊びに来て給料を貰っていた様だ。
おそらくこの二人に、年間1千万円以上の報酬を支払っていたのでは無いかと思われる。

景気の良い時には、そのぐらいの費用負担もできるのだろうが、景気が悪くなったら、
そういうものは一気に負担になる。
普通の事務員ならクビを切る事もできるが、
取締役でもあるし、長年付き合ってきた愛人だからそうも行かない。
これが正妻ならば、処遇のしようもあるが、愛人とが厄介な物の様だ。

もちろん会社が破綻した原因は長引く不況なんだが、その時代の急激な変化に
対応しきれなかったのが原因なのだろう。

破綻したとの報を受けた時は、ちょっと信じられなかった。
色々あったが、大変お世話になった人でもあるし、
今の自分があるのは、店長の下で勉強させてもらったおかげだ。
もしあの事務員がいなかったら、今でも店長の下で仕事をしていたかも知れない。

世の中とは、分からないものだ。また、男女の仲も分からないものだ。



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