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もうひとり 地獄行き

長い付き合いの奴が居る。正確には長くない。真ん中が無いからな。

俺が社会に出て最初に入った会社の同僚。奴は建設部に居た。俺は開発部だ。
俺は二年半でその会社を辞めてしまったし、部署が違うから、一緒に仕事をした事がなかった。

奴はその後不動産部に転属になり、以降、ずっと不動産畑を歩いてきた。
会社を転々として、昨年会社の仕事をしなかったから、とうとうクビになって今は不動産ブローカーだ。
一応ある会社の名刺を持ってはいるが、社員では無い。

そいつと不動産の仕事を一緒にやる機会があった。
俺は売主の専任。奴は買主側だ。

所が奴は最初から俺を飛ばして売主にアプローチした。
そして勝手にリフォームをウチの会社でやる事を決めて、利益も勝手に決めた。
奴は金に詰まっているから、しかたないなと思って付き合ってやったんだが、
俺が職人に出した見積書の原本を持ってこいと言いやがった。
奴は俺が乗せて無いか確認する為だ。

さすがに俺は切れた。
と言っても取り乱す事は無い。心の中で切れた。いや、ヤツを切った。

俺は奴が金に困っているから、大して儲からないどころか、足が出る仕事を引き受けて、
奴の言うとおり、原価に奴の言う利益を乗せて見積もりを出したのに、
奴は俺を疑って、原本を提出させたのだ。

俺は奴に原本を渡した。
もうこの仕事を俺は引き受ける気は無い。
まだ正式に頼まれても居ないが、奴から仕事を依頼されたら断る。

これまで仲間だと思って、色々便宜を計ってやったが、俺も舐められたものだ。
免許も無い不動産ブローカー風情が、正規の免許業者がどういう物か目にもの見せてやる。

奴の今年のこれまで年収は、おそらく300万は行っていないだろう。
住宅ローンがあって、子供が三人居て、一番金が掛かる時期に差し掛かっている。
奥さんが働いているそうだが、到底足りないだろう。
俺はこれまで奴の事を心配していたが、もう心配するのは止めた。

俺は表立って怒りを露わにする事はしない。そんな事をするのは、単細胞のバカがやる事だ。
大人が怒るとどういう事になるか、奴はこれから味わう事になる。
ウチから奴に仕事を出す事はしない。ウチの取り巻きも同じだ。
奴からきた仕事は引き受けてやるが、仕事以上の事はしない。
仕事に付随している物はやらない。
ノウハウも教えない。協力もしない。

奴は事業用の物件を中心にやっていて、エンドユーザーはやらない。
事業用の物件なんて、当たればでかいが、そう滅多に当たる物では無い。
事実奴は食い詰めている。
多分奴は年は越せるだろうが、春が迎えられるかどうか。

同じような奴がもう一人いたが、そいつと奴はこれまでくっついて行動を共にしていた。
同じ道を歩むのだな。

不思議な事に、俺に対して仕掛けてきた奴は、大抵ポシャっている。
以前勤めていた会社もふたつ破綻した。
いずれも俺に対して不利益な事をした奴らだ。

奴も多分、地獄を見るだろう。
もちろん俺は助けない。
なぜなら、もう奴は俺にとって他人以下だから。
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