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呪われた名跡

俺は落語が好きで、
時々仕事の作業をしなから、
ようつべで噺をよく聞いている。

この間、
三遊亭小圓遊の高座がアップされていた。
三遊亭小圓遊は既に亡くなった噺家なんだが、
ちょっとだみ声で、
噺が上手く、古典落語を得意とする噺家で、
好きな噺家のひとりだ。
仕事しながらも、
つい聞き入ってしまう。

俺が中坊の頃、
クラスに「師匠」と呼ばれる奴が居た。
そいつは身体が小さくて、
顔立ちもブサイクな上に運動は丸で駄目だったが、
数学だけは得意で、
数学を自分の拠り所にしていた奴だった。
だから、
数学だけは相当勉強していた様子だった。

奴の顔立ちが三遊亭小圓遊にそっくりだった所から、
悪ガキの一人が奴の事を「師匠」と呼んだ事から、
「師匠」と呼ばれる様になった。
また、
数学だけを拠り所にしていた所も、
何となくキザに見えて、
それが三遊亭小圓遊のキャラクターと被っていた事から、
「師匠」
という呼び名はピッタリだった。

当時三遊亭小圓遊は、
笑点のメンバーだった噺家で、
笑点では、
嫌味なキザなキャラクターで、
桂歌丸と丁々発止やりあっていた噺家だ。
どちらかと言えば、
嫌われ役の要素があった。
だから奴は「師匠」と呼ばれる事をかなり嫌がっていた。

奴の事を「師匠」とバカにして呼んでいたのは、
俺を含めたクラスの悪ガキ共だけだったんが、
ある時クラスの担任が、
何の授業だったのか忘れたが、
何かの問に対して奴が挙手した所、
担任が
「師匠!」
と指した所、
奴は机に突伏してしまった。
クラスは大爆笑だったが、
本人は屈辱のどん底に落ち、
担任は苦笑いをしたのを、
今でも思い出す。

天珠を全うできない名跡がある。
その名前を使った噺家は、
いずれも若くして旅先で急死している。

その名前は、
三遊亭 小圓遊だ。

小圓遊の初代は明治で、
件の三遊亭小圓遊は四代目なんだが、
二代目を除く3名が、
いずれも若くして旅先で亡くなっている。
四代目も旅先で亡くなっていて、
享年44歳だった。

そんな事もあってか、
それ以来「小圓遊」を名乗る噺家はおらず、
現在も空き名跡になっている。

これを呪われたと見るか、
偶然と見るかは、
この後、誰か「小圓遊」を名乗らないと分からない。
だけど、
未だに「小圓遊」を名乗る噺家が現れない所を見ると、
落語界では「呪われた名跡」いなっているのだろう。

件の「師匠」が未だ健在なのかどうかは、
知る由もない。
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